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2009.05.19 Tuesday
逆光(藤椿藤)
椿がやって来る。
学校に、私服で堂々と。 「……よお」 「その調子だともう話しは聞いたようだな」 いつもと変わらぬ凛とした立ち振る舞いに、藤崎はなんだか可笑しくなってくる。 「まあな」 「……驚かないのか?」 「いんや、驚いたさ。驚きすぎてボーゼンジジツとしているだけ」 「ボクもだ…」 椿の臥せた睫毛を藤崎はじっと見た。 「父が…父では無かったなんて…。……お前は取り乱しはしなかったのか」 「したさ。けど今は育ててくれたかーちゃんに感謝してる」 お前も、だろ? 「足元が崩れ去ったかのようだった。信じていたものが一瞬にして失くなるなんて。けど……そうだ、ボクも藤崎のように感謝しているんだ。愛情でもって育ててくれた、父と母に」 藤崎はゆっくりと口を開く。 「オレはしばらく動けなかったよ。孤独だと……思っていた。世界に独りぼっちだと…」 「だけど、」 「ああ、まさかお前がオレのたった一人の肉親だったなんてな。笑っちまうよ」 「たった、ひとり…」 「そうだ……オレ達は互いに一人だ。それ以外に有り得ない」 椿は俯いて、その表情を窺い知ることは出来なくなった。 「りょ、…両親のこと、は、尊敬、しているんだ…。愛している。なのにボク、は……」 寂しい―――… 小さな小さな呟き。 藤崎はしばらく言葉を止めた。 「お、お父さん…、お母さん…。何故……ッ」 ポロリ、と下睫毛を伝って雫が落ちる。 「………勘違いすんなよ、椿。オレだって同じなんだ。……お、オレ、だって…」 感傷に浸るには早過ぎる。だけど込み上げる感情を抑えることが出来ない。 お前が生きていて良かった。 互いに口には出さないが、想っている。 こんなにも鮮烈な、孤独からの、光り。 あまりにも温かい、手の平。 緩やかに傾いた朱い逆光の中、この日初めて、血を同じくする兄弟と抱き合って泣いた。 |
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